blanket

すれ違った人からふと香った香水のような、私にとって悪くない匂い。その匂いに脳が、何を思ったのか一瞬のうちに目の前に引き出す出来事。それは、ちょうど今くらいの時期の蒸し暑い東京の夜のことでした。

私の人生においては、到底手の届かないような輝かしい光、美しい人や憧れていた舞台に触れてしまったこと。私のような幼く弱い人間が、その中でほんの一瞬だけ生きることを許されたのです。

だけれどすぐに、それを子供のように手放したくないと泣いて見せたり我儘になる私の愚かしい欲深さは、散々駄々をこねた挙句、そんな一瞬の本当に美しかった全てを無茶苦茶に汚してしまいそうになったりしました。

当然全てを失って、ふて腐れながら生きている今になって思うのは、きっとあれは、どうしようもない私に、神様か誰かが不意に、それも気まぐれにかけてくれた毛布のようなものだったのだと。そんな一瞬は、私のような人間が、ギリギリ希望を持った勘違いを続けて生きていくには、十分すぎるほどの価値がありました。

どうしようもなく生きる私は、今度は自分で毛布を買って夢を見ないと。夏だから、今は薄いブランケットがあればいいのだけれど。

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